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#399 【読書】内山奈月=南野森『憲法主義──条文には書かれていない本質』

 わかりやすさを追求することは、しばしば、正確かつ本質的な説明を諦めることでもある。物事の本質を正確に説明しようとすれば、わかりやすさをある程度犠牲にせざるを得ないことが多い。入門書が引き受けなければならない一見相反するこうした2つの要請を、相当に高い水準で両立させたのが本書であると評して異論はないだろう。憲法学者がAKB48に所属するアイドルに憲法の講義をし、そのやり取りが対話篇の形で刊行された本書からは、いかにも“イロモノ”な本として否定的な印象を受けるかもしれない。けれども、本書は、日本の法学部で講義される憲法の標準的な説明をしっかりと踏襲しつつ、それをできる限りわかりやすく伝えることに成功している。
 内容以前に、本書のお堅い(サブ)タイトルと、白地に黒文字という極めてシンプルな装丁(帯を外してしまうと、なっきーすらいなくなってしまう)が、そうしたイロモノの印象を払拭するために一役買っていることは評価してよい。帯の後ろ側折り込み部分に掲載された写真が、お嬢様と家庭教師という何とも高貴な印象を与えることにも注目である。


 憲法の個別の論点に多少触れつつも、主たる内容はいわゆる総論部分(憲法総論、人権総論、統治機構総論)に関するものである。この部分こそ、法学部生でさえ憲法の学習上の躓きのもととなる箇所であり、講義の冒頭に配置される関係上“憲法嫌い”を生み出す源泉でもある。こうした憲法の難しい領域を、当時高校生であった内山さん(愛称「なっきー」を使うこともある)に噛み砕いて講義しながらも、正確性を維持するというのは、なかなかに困難な試みだったと思われる。それを実現させた南野先生の講義手腕は見事である。実は、私は九大法学部出身のため、先生の講義を受けたことがある。法学部生向けの憲法の講義であったから、もちろん本書よりはかなり高度で専門的な内容だったが、そこでも講義は巧みであり、わかりやすさは少しも犠牲になっていなかったし、教授された憲法の本質は本書のそれと共通のものである。本書は南野憲法入門という側面も併せ持っていると言ってよい。
 このように南野先生から投げられたボールをしっかりと、しかも想像以上に強力に打ち返す内山さんもさすがである。本書まえがきで南野先生が下した「本当に頭のよいお嬢さん」(2頁)という評の通り、法学部の専門教育を受けていない、しかも3年生になって理系から文系に替えた高校生とは思えない知識力と思考力で、講義に臨んでいたのがよくわかる。国会議員定数の人口比例配分を敢えて疑う先生に食らいつく強さあり(132-35頁)、尊属と卑属の違いの知識あり(29頁)、勉強熱心なことが伝わる。俺は高校生のとき知らんかったぞ、「尊属」と「卑属」なんて言葉…(確か大学3年で家族法の講義を受けて初めてその正確な定義を知った)。

 今話題になっている憲法問題、政治問題を正しく論じるための知識を提供する意義も本書にはある。憲法は何のためにあるのか、「立憲主義」とは何か、という問いは、安倍政権が憲法96条先行改正論を積極的に唱えていたときに、それへの批判という文脈で取り上げられたが、その正確な意味、歴史的経緯についての知識は一般の人(法学・憲法学を専攻として学んだことのない人)の間で深まらなかった印象がある。本書第1・2章は、こうした基礎的知識を学ぶスタートとして最適である。第5章の、集団的自衛権を解釈変更によって認めた政治状況への批判も必読である。

 法学・憲法学プロパーから記述の正確性・適切性について多少の疑問が寄せられているようである。例えば、AKBの恋愛禁止は憲法違反かという説例等をもとに講義がなされる(84-90頁)、いわゆる私人間効力論につき、南野先生が通説とは異なる立場に立脚しているのではないかという疑問があるようである。あの記述だけで、南野先生が(新)無効力説に立つ、あるいは間接効力説をとっていないと断定するのは難しいように思われるが、憲法の知識なき一般読者は前者に近い理解をする可能性が確かにあるだろう。とは言え、これは一般向け入門書で語るには専門性の高い話題であり、かつ、私が先生の講義を生で受けたためにそう思うのかもしれないが、両説は実はほとんど変わらないというのが先生のご見解でもあるから、不正確な記述というわけではないだろう。
 個人的にもっと突っ込んで欲しかったと思うのは、先ほどなっきーの食らいつく力の高さの例であげた、定数不均衡問題の箇所である。学説は予てから1票の価値の平等の実現、すなわち人口比例原則の徹底を求めており、判例も近時その傾向を強めつつある中で、本書では、南野先生が敢えて都会と地方の差異を取り上げてその原則を疑ってかかり、なっきーと対峙する構図ができていた。なっきーに憲法学説を代表させることは土台無理だが、2人のキャッチボールを通して、この原則が本当に妥当するものなのかどうかをより時間を割いて検討してよかったように思う。特に、憲法学説や判例に良い意味で毒されていないなっきーが、もし議論がさらに展開していたらどういう回答をしたのか、興味がある。

 最後に、当たり前のことだが、憲法(学)こうした一般向けの入門書の存在の前提には、綿々と受け継がれ、発展・批判が重ねられた憲法学に関する大量の研究と実務がある。政治が憲法問題を取り上げようとする現在の状況に対して、憲法学とその担い手としての憲法学者はより緻密な理論的応答を要求されるだろう。本書共著者である南野先生を含む研究者たちが、専門の領域でこれから先どのように理論を構築、展開、批判していくのかについても、目を向けずにはいられない。


[2014/8/10(Sun)]
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Tag:読書  Trackback:0 comment:1 

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#- 2014.08.29 Fri09:52
初めまして(^_^) ランキングお隣繋がりで参りました。

文章が面白くて、読んでいて楽しいです☆

ミスチル好きと言う所も同じです(^_^)

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